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大阪地方裁判所 平成5年(ワ)7553号 判決

原告(反訴被告)

永峰崇

被告(反訴原告)

津山敦史

主文

一  被告(反訴原告)は原告(反訴被告)に対し、金四一万円及びこれに対する平成四年一一月二二日から支払い済みまで年五分の割合の金員を支払え。

二  原告(反訴被告)のその余の請求及び反訴原告(被告)の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は被告(反訴原告)の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

以下、原告(反訴被告)を単に原告、被告(反訴原告)を単に被告という。

第一請求

(本訴請求)

被告は原告に対し、金五〇万円及びこれに対する平成四年一一月二二日から支払い済みまで年五分の割合の金員を支払え。

(反訴請求)

原告は被告に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する平成四年一一月二二日から支払い済みまで年五分の割合の金員を支払え。

第二事案の概要

普通乗用自動車と原動機付自転車が衝突し、前者が破損し、後者の運転者が傷害を負つた事故において、前者の所有者兼運転者と後者の運転者が互いに民法七〇九条に基づき損害賠償請求した事案である(反訴請求は内金請求)。

一  当事者に争いがない事実等(証拠によつて認定する事実は摘示する。)

1  本件事故の発生

発生日時 平成四年一一月二二日午前〇時三〇分頃

発生場所 大阪市住之江区南港中八―六

事故車両 原告運転、保有の普通乗用自動車(大阪七八と七七一)

(原告車両)

被告運転の原動機付自転車(大阪市大正う六九〇七)

(被告車両)

態様 南北方向の直線路と東西方向の直線路が交わつた交差点(本件交差点)を南から西に左折した被告車両と東西道路を西から本件交差点に向かつて進行してきた原告車両が、東西道路上の、本件交差点のやや西側で衝突した(甲一、二、原告及び被告各本人尋問の結果)。

2  被告の受傷

被告は、左下腿脛骨骨折、左足関節挫滅創、左下腿コンパートメント症候群、左足関節外内果骨折、左膝靱帯損傷、左足踵骨開放性骨折の傷害を負つた(乙六)。

3  既払い

被告は、自賠責保険金として、合計二五四万二〇〇〇円の支払いを受けた。

二  争点

1  原告及び被告の過失の有無、過失相殺

(一) 原告主張

本件事故は、原告車両が、東西道路の東行き車線追越し車線上をゼブラゾーンにかからず、あるいは、ゼブラゾーンに右側面がややかかるがセンターラインは越えずに西から東に進行していたところ、本件交差点を南から西に左折してきた被告車両が、センターラインを越えて、原告車両に向つて時速約六〇キロメートルの速度で進行し、原告車両の左側前附近に衝突したものであるから、専ら被告の過失によるものである。仮に、原告に何らかの過失があるとしても、一割を越えるものではない。

(二) 被告主張

本件事故は、原告車両が、東西道路の東行き車線をセンターラインを越えて、西から東に走行していたところ、被告車両を運転して、本件交差点を南から西に左折してきた被告が、原告車両との衝突を避けるため、ハンドルを右にきつて、原告車両に衝突したものであるから、専ら原告の過失によるものである。仮に、被告に何らかの過失があるとしても、わずかである。

2  原告の損害(原告主張)

修理費四〇万円、弁護士費用一〇万円

3  費用の損害

(一) 被告主張

治療費二一六万四九三〇円、付添看護費六七万円、入院雑費二三万四〇〇〇円、通院交通費六万二九〇〇円(740円×85)、休業損害二八〇万円(14万円×20)、後遺障害(一二級)逸失利益七五二万六六八四円(220万1900円×0.14×24.4162)、入通院慰謝料二〇〇万円、後遺障害慰謝料二三〇万円、弁護士費用一五〇万円

(二) 原告主張

休業損害の期間、後遺障害の等級、逸失利益の期間は、特に否認する。

第三争点に対する判断

一  原告及び被告の過失の有無、過失相殺

1  本件事故の態様

(一) 前記認定の事実に、甲二、検乙一ないし八、原告及び被告各本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

本件事故現場は、幅員一五メートル片側二車線、中央に幅一メートルのゼブラゾーンのある東西道路と幅員二一メートル片側三車線の南北道路と交わつた信号機によつて規制されていない交差点(本件交差点)附近で、その概況は別紙図面のとおりである。東西道路及び南北道路はアスフアルトで舗装されており、平坦で、いずれも時速四〇キロメートルに規制されていた。本件事故現場は、市街地ではなかつたものの、本件事故時頃の時刻には、二輪車、乗用車等が、練習のため走行しており、本件事故現場は、当時は暗く、本件交差点の南から西、西から南はいずれも見通しが悪かつた。東西道路東行き第一車線には、別紙図面トレーラーシヤーシ記載の位置等に、多数並んだ駐車車両があつた。

原告は、原告車両を運転し、東西道路を時速約六〇キロメートルで、本件交差点に向い、進行していた。その際、駐車車両があつたため、第二車線上の、車体がやや道路中央のゼブラゾーンにかかる位置を走行していた。そして、南から西に向かつて、左折するに当たり、別紙図面〈A〉(以下、記号のみで示す。)附近の、対向車線である原告車両進行車線に進出した二輪車を発見したので、減速し、〈2〉附近ないしその後東に進行中、〈ア〉附近ないしその後原告車両の方向に進行中の被告車両を見て、危険を感じ、ブレーキをかけたが、〈3〉附近に至り、その左前部が、〈イ〉附近の被告車両と〈×〉で衝突し、〈4〉附近で停止した。

被告は、被告車両を運転し、南北道路北行き第三車線を時速約四、五〇キロメートルで進行し、東西道路西行き第二車線に左折進入しようとして、減速し、〈ア〉附近に至つたところ、〈2〉附近を進行している原告車両を認め、衝突の危険があると感じ、右にハンドルをきつて避けようとしたが、前記の態様で原告車両と衝突した。

(二) 被告本人尋問中には、原告車両は道路中央のゼブラゾーンを相当程度越えて進行していたと供述する部分があるものの、越えている程度についての具体的内容は変遷しており、その供述によつても、越えていると判断した理由は、被告車両と原告車両が衝突すると感じたことのみであつて、原告車両の車輪部分はまつたく見ていないのだから、甲二、原告本人尋問の結果、特に、それらによつて認められる、被告車両の冷却水痕及びそれによつてつけられた原告車両のタイヤ痕に裏付けられた衝突位置に照らし、信用できない(むしろ、被告本人尋問の結果によると、被告は、左折する際に、ゼブラゾーン附近に向つて、東西道路からみると斜め方向に進行していたことから、原告車両と衝突する危険があると考えたに過ぎないと推測される。)。

2  当裁判所の判断

前記の事実によると、被告は、少なくとも、左折の際の減速が不十分であつたこと及び左方の安全確認が不十分であつたことのため、ゼブラゾーン上に車体の右側面をややかけたが、センターラインは越えないで走行していた原告車両と衝突する危険があり、それを避けるためには右ハンドルをきるしかないと判断し、対向車線に大きく進出したことによつて、本件事故を引き起こしたものであるから、民法七〇九条により、原告に発生した損害を賠償する責任がある。

一方、原告にも、被告車両が〈ア〉附近に至るまで同車両を発見せず、その後も、原告車両の方向に進行してきていた被告車両の動静に十分注意しなかつた過失、制限速度をやや上回つて走行していた過失があるから、民法七〇九条に基づき、被告に発生した損害を賠償する責任がある。

そして、その過失割合は、前記認定の事実、双方の過失内容、特に、衝突位置が原告車両進行車線に大きく入つた位置であること、被告の減速・前方注視が十分であれば、被告から見て左側に十分な走行余地があつたことからすると、原告一割、被告九割と考えるのが相当である。

二  原告の損害

1  修理費用 四〇万円

甲三の1ないし3、原告本人尋問の結果によつて、認められる。

2  過失相殺後の損害 三六万円

3  弁護士費用 五万円

本訴の経過、認容額等に照らすと、右額が相当である。

三  被告の請求について

被告の主張する弁護士費用を除いた損害額の合計は、一七七五万八五一四円であるので、それを前提としても、過失相殺考慮後の損害は、前記の既払い金を超えない。したがつて、その余の点について判断するまでもなく、被告の請求は認められない。

四  結語

よつて、原告の請求は、四一万円及びこれに対する不法行為の日である平成四年一一月二二日から支払い済みまで民法所定の年五分の割合の遅延損害金の支払いを求める限度で理由があり、被告の請求は、理由がない。

(裁判官 水野有子)

別紙図面

〈省略〉

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